漁業にも?AI導入による効率化とそこから見えるAIシステムを導入するときの注意事項
本記事はデータサイエンスの第一人者 中西崇文氏からの寄稿記事です。
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こちらのニュースでは、ハマチやマダイの養殖にAIやIoTを活用していることが伝えられています。特にポイントはスマート給餌機です。このスマート給餌機によって、魚の様子を画像で取得し、画像解析をすることで、給餌の量やタイミングを最適化することができ、餌代や漁船の燃料費削減、環境負荷の提言に一役を買っているといいます。
特にハマチの給餌では、ハマチは一度にたくさんの餌を食べる習性があることから、短時間で大量の餌をいけすに投入しながら人が目視で食欲状態を確認していたといいます。スマート給餌機の導入によって、人が生けすに行くのが2〜3日で1回だけでよく、効率的な給餌の量やタイミングを最適化が実現できました。
これらのニュースを聞いてどのように感じましたでしょうか。AI活用が漁業にまで進んでいるというところがポイントかと思います。重要なポイントは人が目視で魚の食欲状態を確認していたのを自動的に監視することができるようになったことでしょう。人が目視で続けるとすれば、いけすに大量の時間を割いて人が張り付かないといけなくなるでしょう。また、ハマチの食欲状態の判断というのをそもそも素人が見てわかるものなのでしょうか。おそらく、職人の勘やコツの域に達しているのではないでしょうか。
AI導入によって匠や職人の仕事はなくなるのか
日本ではすでに人口が減り出しています。また、その分野ごとの職人、匠といった人物からスキルや知識を伝授しなければ途絶えてしまう産業も多く存在します。今回のハマチの養殖も多かれ少なかれそういうところがあったのではないかと考えられます。それは今回のような漁業などの第一次産業の現場だけではないと考えます。どの職場でもその人のスキル知識がなければ進まないことがたくさんあるかと思います。我々はあまりにもそれらのスキル知識を引き受ける術をないがしろにしてきたのではないかと思います。
そういう現場においてもAIは力を発揮するかもしれません。その現場においてIoTなどを駆使してデータを抽出する工夫することが第一ステップとなるでしょう。その後、そのデータが何を意味するのかタグづけをする必要があるでしょう。このタグづけこそ職人、匠といった人物に監修していただく必要があるでしょう。それらが完了すれば、AIを用いて学習することで、もしかすると、職人、匠が身につけていたスキル知識を再現できる可能性があるということです。
匠や職人の仕事がなくなるのでしょうか。なくなりはしません。今回のハマチの養殖の例でも、2〜3日に1回はいけすを見回らなければなりません。しかしながら、通常業務であれば、かなり業務を減らすことができたと考えて良いでしょう。AIで学習できるのは、通常業務においての判断がやっとでしょう。普段起こらない事象が起こった場合はAIでは対処ができず、人間が直接判断することになるでしょう。
AIシステム導入実現の際の重要点
ここで一つ気づいたことがあると思います。AIシステムを実現するためには、現場の職人や匠の監修が必要であるという点です。これを読まれている読者の中には、AIはデータを集めれば、いい感じに分析してくれるのだろうと簡単に思っているかもしれません。しかしながら、通常のAIのアルゴリズムは学習をしなければ、うまく分析してくれるようにはなりません。その際、集めたデータについてそのデータは一体何を示しているのかをタグづけする必要が出てきます。そのタグづけがうまくできる人を考えてみると、その職場の職人や匠であることがほとんどなのです。
これは、AIシステムを導入する際に非常に重要な点なのです。その分野の何かを分類するためのAIシステムを実現するためには、その分野の分類の仕方を知っている現場の方々の助けがない限り実現できないのです。
これは、AIシステムを提供する側、AIシステムを導入する側、どちらも注意しなければならない点です。
AIシステムを導入する側の注意事項
AIシステムを導入する側の方は、AIシステムを提供する側に丸投げしようとしていないでしょうか。丸投げをしても素晴らしいAIは出来上がりません。必ず自分達が保持しているデータはどういう値でどういう意味なのか、場合によってはタグづけを一緒に進めることも必要になるかと思います。現場にAIを導入するということは、現場のスキル知識が必要となるだけでなく、現場の業務の方法や流れが変わることも考えていかないといけないです。それは丸投げしたAIシステムを開発する側にはさっぱりわからないことなのです。
AIシステムを開発・提供する側の注意事項
AIシステムを開発・提供する側の方は、AI技術をあまりにも信用し過ぎていないでしょうか。AI技術の精度はAI技術自体のアルゴリズムだけでなく、データの精度によっても異なることは当たり前だと思います。ほとんどの場合、データを保持しているのは、開発・提供側ではなく、導入側なのです。導入側の現場の人々の多大なる協力がない限り、よいAIシステムを提供することは不可能なのです。
それを突き詰めて考えていけば、AIシステムの実現は、これまでの発注、請負の関係で簡単に成り立つわけではなく、共に開発し育てていくという発想が重要になってくると思います。
AIの様々な分野への展開が日本の産業をより元気にする
私自身も色々なAIシステム導入の案件に関わらせていただきましたが、発注、請負の関係でのプロジェクトでは大体失敗に終わっています。開発・提供側、導入側がスモールスタートで少しずつ協力して一緒になってAIシステムを育てていくのだというモチベーションのプロジェクトは、非常に良い成果を残すことが多いです。
これまでICT技術は、製品を購入して導入するというイメージがどこかにあるのかと思います。AIシステムの場合は、既製品はなく、現場の課題に合わせて、データを加工し、オーダーメードで作っていくというイメージです。その際、現場の課題を一番よくわかっている人は導入側の人であり、その方々に参加していただきながら、作っていくことができなければ、プロジェクトが破綻することがお分かりになられるかと思います。
今後どんどん意外な分野へのAI展開事例がニュースとなるでしょう。そのような事例をひとつずつ作っていくことが、日本の産業をより元気にさせることになるかと思います。上記の通り、現場と開発者が一丸となって取り組んでいけばまだまだ新たなAIシステムが登場するのではないかと思います。
この記事を書いた人
- 中西崇文
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武蔵野大学 データサイエンス学部
データサイエンス学科長 准教授
国際大学グローバル・コミュニケーション・センター主任研究員
デジタルハリウッド大学大学院客員教授
データサイエンティスト、博士(工学)
1978年、三重県伊勢市生まれ。
2006年3月、筑波大学大学院システム情報工学研究科にて博士(工学)の学位取得。2006年より情報通信研究機構にてナレッジクラスタシステムの研究開発等に従事。2014年4月より国際大学グローバル・コミュニケーション・センター准教授・主任研究員、テキストマイニング、データマイニング手法の研究開発に従事。2018年4月、武蔵野大学工学部 数理工学科 准教授。2019年4月より現職。
現在、機械学習などをはじめとする人工知能技術をコアとしたシステムの研究開発やそれらのビジネス、サービスの立ち上げを目的とした企業連携研究プロジェクトを多数推進中。
総務省「AIネットワーク社会推進会議」構成員、経済産業省 「流通・物流分野における情報の利活用に関する研究会」委員、総務省「ICTインテリジェント化影響評価検討会議」構成員、等歴任。
専門は、データマイニング、ビッグデータ分析システム、統合データベース、感性情報処理、メディアコンテンツ分析など。
著書に『スマートデータ・イノベーション』(翔泳社)、「シンギュラリティは怖くない:ちょっと落ちついて人工知能について考えよう」(草思社)などがある。
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