Azure VMware Solutionの活用方法と導入時の注意点とは?~実際に導入して検証してみた
既存インフラの保守切れ等をきっかけに、オンプレミス環境からクラウド環境への移行を検討する企業が年々増えています。しかしクラウドへの移行は、「パブリッククラウドでは移行要件を満たせず、リファクターやリアーキテクトのコストがかかる」「移行先クラウドの管理スキルを新たに習得しなければならない」といった課題を伴うのも事実です。
そのような課題を持つVMwareユーザーにおすすめしたいソリューションが、Azure VMware Solution(以下AVS)です。現行のVMware環境をほぼそのままMicrosoft Azureに移行できる上に、Azureの提供する様々なサービスとの連携も可能です。ただし、現行環境によって移行方式が変わってきますし、デフォルトの設定のままでは期待通りに動かないケースもあります。またAzureの知識とノウハウも必要です。
そこで日商エレクトロニクスで実際に移行作業を行い、どうすればスムーズな移行が可能になるかを検証しました。本稿ではAVSの概要と活用方法および導入の注意点をお伝えします。
※本稿の内容は2020年10月時点の情報です。
※提供されるサービスの内容は変更される場合があります。
※本稿に掲載したパフォーマンス値は、日商エレクトロニクス環境における実測値であり、製品・サービスの性能値を保証するものではありません。
AVSの3大特長
AVSを一言でまとめると、「Microsoft Azureで提供されるVMware vSphereベースのプライベートクラウドサービス」です。大きな特長は3つあります。ユーザーごとにホストが確保されること、ネイティブvSphereを完全にサポートしていること、Azureの独自特典によるコスト最適化が可能なことです。
ユーザーごとにホストが確保されることで、ユーザーはインフラレベルでリソースを柔軟に利用・管理することができ、ワークロードも安定します。またパブリッククラウドでは若干不安のあるコンプライアンスやセキュリティに関する要件にも対応できます。
ネイティブvSphereを完全にサポートしていることで、ユーザーはオンプレミスと運用の共通化が図れ、アプリケーション、ツール、スキル、プロセスなど既存資産をそのまま活用できます。提供されるvSphere環境はフルマネージドで、VMware toolsエコシステムを完全にサポートしています。またNSX-Data CenterとvSANも標準提供されています。
Azureの独自特典とは、1つはオンプレミスのコアライセンスの持ち込みが可能なため、Azure用の新規ライセンスの追加購入が不要だということです。もう1つはAzure IaaSへ移行したワークロードに関しては、拡張セキュリティプログラム(ESU)がサポート終了後3年間追加料金なしで提供されることです。これによりWindows Server 2008 R2やWindows 7などの環境も、当面の間、無償で安心して使用することができます。
AVSの構成例と料金プラン
Azure VMware Solutionの構成例
ここでAVSの構成例を示します。Azure内には他のAzure環境と隔絶された環境にユーザーごとのAVS環境が用意されます。オンプレミス環境とAzureとはExpressRouteかAzure Virtual WANで接続します。ただし後述しますが、Virtual WANでの接続では移行機能に制限があります。オンプレミスとAzureとはMSEE(Microsoft Enterprise Edge Router)経由での接続になります。またAzureとユーザーのAVS環境へは高速バックボーン回線を経由して接続されます。
AVS上のプライベートクラウドの構成条件は、1クラスタ以上で、各クラスタ内のホストノード数は3~16台です。つまり最小構成は、ホストノード3台の1クラスタになります。それ以上であれば、ホストノード単位での拡大・縮小が可能です。ホストモデルは現時点(2020年11月現在)では、AV36のみとなっており、料金プランは表の通りです(予約割引はAVSだけではなくAzure共通の割引です)。
ホストモデルのスペックと料金プラン
ホストモデルのスペック
モデル名 | CPU | RAM | Flash Storage | NVMeCache |
---|---|---|---|---|
AV36 | dual Intel 18 core | 576 GB | 15.30 TB | 3.2 TB |
2.3 GHz |
※クラスタ構成のため最低 3 台以上のホストノードが必要
料金プラン((東日本リージョン、1ノード当たり)
モデル名 | 従量課金 | 1年予約 | 3年予約 最大53%OFF |
|
---|---|---|---|---|
AV36 | 1時間あたり | ¥1,209.38 | ¥803.89 | ¥564.67 |
1か月あたり | ¥882,847.4 | ¥586,839.7 | ¥412,209.1 |
※VMware プライベートクラウドに必要なライセンスもすべて包含
また現時点では、米国東部、米国西部、西ヨーロッパ、オーストラリア東の4リージョンのみで利用可能ですが、需要を見ながら順次拡大する予定です。東日本リージョンに関しては間もなくリリースされることが決定しており、準備を進めています。(東日本リージョンは2020年12月に利用可能となりました)
想定されるAVSの活用シーン
AVSの活用シーンとしては主に、レガシー基盤からの移行、安定したワークロードへの期待、VDI環境の3つが想定されます。このうちレガシー基盤からの移行に関しては、現行環境に応じたベストな移行方法、その他2つについては移行のパフォーマンスと機能が主な関心事となります。
そこで日商エレクトロニクスでは実際に移行作業を行い、移行方法、パフォーマンス、機能のそれぞれの観点で検証しました。
AVSへの3つの移行パターンとデフォルト設定での問題および解決策
まず移行方法についての検証です。オンプレミスのvSphere環境からAVSへ移行する際には、停止期間の長さに応じてコールド、ウォーム、ホットの3つのパターンがあります。
| コールド | ウォーム | ホット |
---|---|---|---|
停止期間オーダー | 数時間 | 数分(最終切り替え時) | 数秒 |
移行方法 | VMware Converter(*) 3rd Partyツール ※一部のオンライン以降方式にも対応 |
HCX Bulk Migration | HCXvMotion HCX Replication AssistedvMotion(RAV) |
シナリオ |
|
|
|
vSphereバージョン | 5.0未満 | 5.0、5.1、5.5、6.0、6.5、6.7 | 5.5、6.0、6.5、6.7 |
コールドでの移行
コールドは、VMware Converterもしくはサードパーティの同等機能のツールを使ったもので、数時間程度の停止期間となります。ですが、他の移行パターンと比較すると幅広い環境に対応していることと、移行元の環境にツールを展開するだけで済むといったメリットがあります。
ウォームでの移行
ウォームは、HCX(Hybrid Cloud Extension) Bulk Migrationを利用する移行方法です。WAN最適化により移行に必要な通信要件が緩和されます。特にL2延伸による拡張が可能なので、オンプレミスでのIPアドレスをそのまま引き継ぐことができます。
ウォームでは、移行に先立ちディスクレプリケーションを行うため、停止期間は数分で済みます。並列同時移行と移行のスケジューリングが可能なので、大量のVMを一気に移動するVDI環境などの移行に向きます。ただしオンプレミスとAzureの接続に関してはExpress RouteのみでVirtual WANでは利用できません。
ホットでの移行
ホットは、HCX vMotionを利用する移行方法です。移行に先立ってレプリケーションはもちろん、メモリ移行も行うためVMの再起動が必要なく、ダウンタイムは数秒となります。ただし同時に1台しか移行できないため、ダウンタイムを最小に抑えたいワークロードの移行に限定した使い方が推奨されます。
ホットにはもう1つ、HCX Replication Assisted vMotionを利用した方法があります。これはBulk MigrationとvMotionの双方の利点を合わせたものです。vMotionと同じく、レプリケーションとメモリ移行を行うのでダウンタイムは数秒です。その上、Bulk Migrationと同じく並列同時移行とスケジュール移行が可能になっています。ただし、別途HCX Enterpriseライセンスが必要になります。
さて実際に移行作業を行ったところ、L2延伸で移行したVMのIPアドレスが割り当てられないというトラブルが発生しました。原因を調べたところ、NSX-Tのデフォルト設定のままだとDHCPパケットがブロックされることが判明しました。そこでDHCPパケットをブロックしないようなカスタムプロファイルを作成して適用したところ、無事にIPアドレスが割り当てられるようになりました。
移行に関しては、ワークロードの要件ごとに最適な移行方法を選択し、適宜組み合わせることを推奨します。
AVSで期待できる高パフォーマンス
パフォーマンスの観点では、CPU性能とvSANストレージ性能を検証しました。ただし、当社検証機での比較になりますので、お客様環境での性能向上を保証するものではありません(以下、同様です)。
CPU性能は、単純に移行前と移行後を比較しました。ゲストOSとアプリケーションのチューニングは行っていません。その結果、最低でも30%、最大200%の性能スコアの向上が見られました。単純に移行するだけで、性能向上が期待できることがわかります。なお当社のオンプレミスvSphereノードのCPUは、Intel Xeon CPU E5-2160 v2 2.10GHzでマイクロアーキテクチャーはIvy Bridgeです。
Azure VMware Solution CPU 性能
vSANについては、1クラスタ3ノードの最低要件で、18個のVMを起動しました。ストレージポリシーは、RAID-1、FFT-1です。この条件で、4Kランダムリードアクセスで550KIOPS、256Kシーケンシャルリードで16GB/sを達成しました。これは最小構成でもミドルレンジエンタープライズ以上の性能であることを意味しています。
Azure VMware Solution vSAN ストレージ性能検証
機能面では問題があったが、解決は容易
機能の観点では、vSANの重複排除・圧縮およびバックアップについて検証しました。
まずvSANの重複排除・圧縮に関してです。大量のVMを展開するVDIなどでは、All Flash vSANによる高速展開を行います。ディスク容量40GBのVMを300個展開した結果、1VMあたり1分30秒で完了することができました。その後、重複排除・圧縮による実効削減率を測定したところ、5.5倍に達しました。VMware HorizonのようなVDIシナリオには特に有効だと言えます。
Azure VMware Solution vSAN 重複排除・圧縮
実は、はじめにデフォルトのvSANストレージポリシーで実行した際には、重複排除・圧縮がまったく効かず、40GB×300VM分の容量が消費されていました。対策としては、vSANストレージポリシーのプロポーショナル・キャパシティの設定値を変更するだけです。設定変更の結果、前述した実効削減率が達成されました。
バックアップに関しては、MABS(Microsoft Azure Backup Server)でのバックアップを実行し、そのスループットを測定しました。MABSはAzureで提供されている安価なストレージにデータバックアップを行う際に活用されるサービスで、12Gbpsのバックボーン回線を使用した高速バックアップが特徴です。
バックアップも当初、低いスループットに留まりました。ボトルネックとなり得る部位は、Azure IaaS内の4箇所で、具体的には仮想ネットワークゲートウェイ、VM(ネットワークアダプタ)、VM(ストレージ入出力)、Managed Diskです。このうちManaged Diskのスループットが60MB/sしかなく、ここが完全なボトルネックとなっていました。
対策としてはボトルネック部位であるManaged DiskのSKU(Stock Keeping Unit、サービス階層)を上げるのはもちろん、他の3箇所のSKUも上げました。
まとめ~AVSのメリットと導入時の注意点
AVSのメリットを考える際には、プライベートクラウド、システム移行、コスト最適化の3つの観点があるかと思います。プライベートクラウドとしては、VMware環境の機能・性能をフル活用することが可能で、高度なセキュリティ要件にも対応できます。VDI環境としてもかなりセキュアです。システム移行については、幅広い環境からの移行に対応でき、様々な移行手段が用意されています。移行コストについては、現状のスキルやツールをそのまま活用できることやAzure独自特典によるライセンス持ち込みなど様々な最適化手段が用意されています。
導入時の注意点をまとめますと、まず移行元のvSphereバージョンとAzureとの接続方法についての確認が必要なことが挙げられます。これはバージョンや接続方法によって可能な移行方法に制限があるからです。またAVSの性能をフルに発揮するためにはデフォルトの設定値の変更やAzure IaaSに関する知識が必要です。
AVSへの最適な移行方法の検討にも、また実際の導入においてもAzureおよびVmwareの専門知識とノウハウが必要です。日商エレクトロニクスは、AVSをじっくり検証した結果、AVS導入に関する様々なご支援が可能になっています。まずはお気軽にご相談いただければと存じます。
また今回の検証の結果を資料としてご提供しています。
より詳しい内容が載っていますので、AVSにご興味があれば是非ご覧ください。
\2020年12月版/
この記事を書いた人
- Azure導入支援デスク 編集部
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