AI活用で未来が見える

本記事はデータサイエンスの第一人者 中西崇文氏からの寄稿記事です。
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アクセンチュアの調査によるとAIを競争優位に繋げられるほど活用している組織は、世界でもわずか12%に過ぎないとわかったという。AIという単語が叫ばれて久しいが、AIの潜在的能力をまだまだ発揮していないことがわかる。また、このようなAIを競争優位につなげられるほど活用している組織は同業他社より最大50%の収益成長を達成しており、顧客体験と持続可能性の面においても優れていることもわかったという。このような状況から、AIをうまく活用できている企業はまだまだ少ないが、それらの企業がAIをうまく活用することができれば、より社会が活発に価値創造してくるというメッセージだと感じる。

AIの活用フェーズの進展

私は、2年ほど前から、AI技術に関しては、これから活用にフェーズに入り、日本も様々な活用事例を作っていくことによってまだ世界に台頭するチャンスが残っているとお話ししてきた。上記の調査結果を加味するに活用フェーズには入っているもののスピードが鈍化しているようにも思える。このままAIの活用は鈍化をしてなくなり、日本のチャンスはなくなってしまうのだろうか。いや、それはないと考える。

メタバースというキーワードが世の中を賑わしているが、人々の活動や自然現象を捉えるためにはデータが必要である。これは実世界でも仮想世界でも関係ない。この事実がある限り、AIの有効性はずっと続くのだ。AIでできることは、人々の活動や自然現象といった今の状況を認識することだ。今の状況をリアルタイムに認識して可視化することによって、我々はいままで以上に正しく速く意思決定を行うことができるであろう。

もう一方で、我々が生活する実世界の動きは急速に変化し続けている。この急速な変化に伴って、我々のタスクは膨大にかつ迅速に対応すべきものになりつつある。これらのタスクをずっと人の力でガッツと頑張りでこなそうというのであろうか。ワーク・ライフ・バランスを考えていくと人口減少に入った日本において、社会の急速な変化の中で、迅速さが必要な膨大なタスクを人の力でこなすことはすでに限界に入っている。我々がまず導入しなければならないものはAIである。AIは認識と自動化により迅速さが必要な膨大なタスクを助けてくれるだろう。

このように考えるとAIの活用フェーズの進展によって、社会の進展具合も変わってくる。

GX、環境問題とAIの相性の良さを知る

世間ではDX(Digital Transformation)からGX(Green Transformation)にシフトしつつあるが、GXこそAIの活用が急務であると考える。GXとは、環境破壊、異常気象、温暖化など環境問題を先進技術で解決することでカーボンニュートラルなどの持続可能な世界を目指す取り組みを指す。

GXを取り組むと言いながら、AI活用を考えないのはあり得ない。GXを取り組むためには、我々がどれだけの温室効果ガスや廃棄物を出し、それが地球環境にどれくらい影響しているのかできるだけ詳細に知ることからスタートする。これらを知るためにはデータを収集することが必要だ。さらにそのデータを用いて分析していくことで効率化を図っていくという流れになるはずだ。その効率化というところで、我々人間が活動するのではなく、できるところからAIを導入していくことが重要である。先にも言った通り、我々がガッツと頑張りでこなそうとしても環境問題が解決しないというところまで来ていると考えて良い。

GX、環境問題とAIはどれだけ相性がよいのかを知るべきである。もちろんAIを動作させるマシン、コンピュータには電力が必要となる。その電力消費量が大きいことは隠してはいけない。もちろんその電力消費料を考えたとしても、我々人間が勘やコツによりガッツと頑張りでタスクをこなしていくよりも効率が上がる期待がある。

このように考えていくと、AIを競争優位に繋げられるほど活用している組織がまだ世界で12%しかないことは、まだ我々がやれることが残っていると考えられる。

AIを活用するために重要なこと

そうはいうものの、どのようにAIを活用していけばいいのか全然想像がつかない方もいらっしゃるであろう。まずは身近な自分自身や自社の課題を考えて、その中でデータ取得可能なものを上げていこう。データ取得可能なものがあれば、そこがAI活用の入り口だ。決して、AIは買ってきてインストールをすれば使えるものではない。まずは自身や自社の課題を考え、その課題に対して適用するものである。

もう一つ重要なのは、現状のワークスタイルにAIを合わせるのではなく、AI導入とともにそこに働く人々にも新たなワークスタイルを導入するということも重要である。これまでのICTシステムを考えると業務フローに合わせてシステムを調整し納入している例が多かった。AIシステムの場合はそれをやってもうまくはいかない。AIが導入された際にどのように業務フローを組み立てれば効率的な働き方になるかと同時に考えていくことが必要である。これは、まさに企業文化を変えることになる。

さらに、AIの活用によって企業文化さえ変えてしまうことであるため、現場だけでなく、経営層の覚悟というのが重要となる。経営層の覚悟がなければ、企業文化を変えることができない。

まとめ

このように考えるとAIの活用というのは私が当初思っていた以上にハードルが高いと考えられる。ただ、日本はAI活用事例を大量に発信する素地ができており、チャンスであるとも考えている。AI活用事例を増やしていくことによりGXにも間接的に貢献していくものと期待している。

まだまだAI活用のチャレンジを止めてはいけない。

この記事を書いた人

中西崇文
中西崇文
武蔵野大学 データサイエンス学部
データサイエンス学科長 准教授
国際大学グローバル・コミュニケーション・センター主任研究員
デジタルハリウッド大学大学院客員教授
データサイエンティスト、博士(工学)

1978年、三重県伊勢市生まれ。

2006年3月、筑波大学大学院システム情報工学研究科にて博士(工学)の学位取得。2006年より情報通信研究機構にてナレッジクラスタシステムの研究開発等に従事。2014年4月より国際大学グローバル・コミュニケーション・センター准教授・主任研究員、テキストマイニング、データマイニング手法の研究開発に従事。2018年4月、武蔵野大学工学部 数理工学科 准教授。2019年4月より現職。

現在、機械学習などをはじめとする人工知能技術をコアとしたシステムの研究開発やそれらのビジネス、サービスの立ち上げを目的とした企業連携研究プロジェクトを多数推進中。

総務省「AIネットワーク社会推進会議」構成員、経済産業省 「流通・物流分野における情報の利活用に関する研究会」委員、総務省「ICTインテリジェント化影響評価検討会議」構成員、等歴任。

専門は、データマイニング、ビッグデータ分析システム、統合データベース、感性情報処理、メディアコンテンツ分析など。

著書に『スマートデータ・イノベーション』(翔泳社)、「シンギュラリティは怖くない:ちょっと落ちついて人工知能について考えよう」(草思社)などがある。