今さら聞けない「DWH」とは?
~データベースやデータマートとの比較も含めて解説!~
データ活用が企業の競争力を左右するキーファクターとなっている現代社会。
データが企業を動かす燃料であるとしたら、その巨大な燃料タンクとも言えるのが「DWH」、すなわちデータウェアハウスです。
しかし、「DWHって具体的に何?」「データベースやデータマートとは何が違う?」などの疑問を持ちの方もいらっしゃるかと思います。
そこで今回は、DWHの基本から、データベースやデータマートなど似た製品との違いについて解説します。企業でどのように活用されているか、ユースケースも解説しますので、活用イメージをつけていただくきっかけにしていただければ幸いです。
こんな方におススメ
- DWHについて基礎からおさらいしたい
- データベースやデータマートとの違いを知りたい
- DWHの活用イメージをつけたい
目次
1.DWH(データウェアハウス)とは?
DWH(データウェアハウス)の意味について、IT用語辞典 e-Wordsには下記のように掲載されています。
データウェアハウス(DWH)とは、
企業などの業務上発生した取引記録などのデータを時系列に保管したデータベース。
また、そのようなシステムを構築・運用するためのソフトウェア。“warehouse” は「倉庫」の意。
つまりDWHは、企業内の様々なシステムから集められたデータを一元管理する場所を差します。
データを管理するというと、データベースなどのストレージ類が思い浮かぶかと思いますが、それらと比べると分析に特化していることが大きな特徴です。
DWHは、日常的な業務データを効率的に処理するためのオンライントランザクション処理(OLTP)システムとは異なり、データの統合、照会、分析に焦点を当てたオンラインアナリティカル処理(OLAP)を行います。
このような特長を持つDWHが誕生した主な背景には、以下の2点があげられます。
- 意思決定支援の必要性の高まり
1980年代以降、ビジネス環境が複雑化し、経営判断の材料としてデータに基づく分析が欠かせなくなってきました。しかし、当時の業務システムは部門ごとに個別に構築されており、全社的な視点でのデータ分析が困難でした。そこで、異種データを統合し、経営層をサポートするシステムが求められました。 - データ処理技術の進歩
1990年代に入りリレーショナルデータベース技術が飛躍的に進歩し、大規模データの積極的な活用が可能になりました。特に並列処理や索引技術の進化により、大量のデータに対する高速な検索・集計が実現できるようになりました。
こうした経営とIT両面のニーズが合致し、企業の意思決定をデータベースに基づき支援する仕組みとしてDWHが注目を集めるようになったのです。
業務データを一元的に集約し、高度な分析を可能にするDWHは、今やデータ活用時代の中核的なシステムとなっています。
2.DWHと他のデータ関連製品との違い
もう少し具体的に類似製品との違いを見ていきましょう。
①DWHとデータベースの違い
一般的なデータベースが日々のトランザクション処理に特化しているのに対し、DWHは大量のデータを長期間にわたって蓄積し、それらを効率的に検索・分析することに特化しています。
このため、データウェアハウスは時系列データを保持し、履歴分析やトレンド予測などの複雑なクエリを実行するのに適しています。
大きく4つの観点で比較すると、下記の様な違いがあります。
データベース | データウェアハウス | |
---|---|---|
目的 | 日々のトランザクション(例えば、注文処理、在庫管理など)を管理し、ビジネスの日常運営の支援 | 異なるソースから収集したデータを統合し、主に分析や戦略的意思決定の支援 |
データの種類と構造 | 現在進行形のデータがリアルタイムで更新され、正規化された構造が一般的 | 異なる時点からの歴史データを含み、分析に適した非正規化、または多次元的な構造(スタースキーマやスノーフレークスキーマ)を持つ |
処理の種類 | オンライントランザクション処理(OLTP)に最適化されており、高速で小規模な書き込みや更新を頻繁に行う | オンラインアナリティカル処理(OLAP)に最適化されており、大量のデータに対する複雑なクエリや集計が主な用途 |
更新の頻度 | 日常的に頻繁に更新が行われる | 定期的なバッチ処理による更新が主であり、リアルタイム性よりも歴史的データの蓄積と分析が重視される |
これらの違いから、データベースは運用データを扱う場合に、DWHは組織全体のデータを分析し、戦略的な洞察を得るために使われます。
② DWHとデータマートとの違い
データマートはDWHから派生した概念で、特定の部門や業務領域に特化したデータ集合を指します。企業は全社的なデータウェアハウスから必要なデータを抽出し、部門ごとのデータマートを作成することで、より具体的で高速なデータアクセスを実現します。
簡単に言うと…、
- DWHは組織全体の広範なデータニーズに応えるための大規模なリポジトリ
- データマートは特定のビジネス領域や部門向けにカスタマイズされた小規模なデータセット
となります。
大きく4つの観点で比較すると、下記の様な違いがあります。
データウェアハウス | データマート | |
---|---|---|
スコープ | 企業全体のデータを統合し、全社的な分析のための一元的なリポジトリ | 特定の部門やビジネス領域に焦点を当てたデータ集合 |
用途 | 全社的な意思決定を支援し、広範囲にわたるデータ分析やレポーティングが可能 | 特定のユーザーグループや部門のニーズに合わせた分析を提供 |
設計と実装の複雑さ | 全社的な視点からデータを統合するため、設計と実装がより複雑になりがち | 比較的単純な設計であり、実装も迅速でコスト効率が良い |
データの粒度 | 非常に詳細なレベルから要約レベルまで、幅広い粒度のデータを保持 | 主に特定の目的に合わせた要約または集約されたデータを保持 |
③ DWHとデータレイクとの違い
その名の通りですが
- DWHは整理された統合されたデータを使ってビジネスインテリジェンスを行うための「倉庫」
- データレイクは生の大容量データを貯蔵し、柔軟な分析や機械学習活動に利用するための「湖」
です。
3つの点で比較すると下記のようになります。
データウェアハウス | データレイク | |
---|---|---|
データの構造と粒度 | 通常、整理された構造を持つ、統合されたデータを保持。一定の粒度で整形され、スキーマが定義されている。 | 構造化されていない生データを保持し、データは生の形で保存。スキーマレスのアプローチを取る。 |
データのソースと種類 | 企業内部の異なるシステムからのデータを統合し、事前に処理されたデータを保持。 | 企業内外からのあらゆる種類の生データを収集し、後で必要に応じて分析や処理を行う。 |
目的と用途 | 主に構造化されたデータを使ってビジネスインテリジェンスやレポーティングに利用し、組織全体の意思決定を支援。 | 主に非構造化または半構造化された大容量の生データを保存し、後で必要に応じてさまざまな分析やデータサイエンス活動に活用。 |
3.DWH導入のメリット
では、DWHを導入するとどのようなメリットがあるのでしょうか。次から解説していきます。
① データ管理を効率化できる
DWHは、異なるソースからのデータを収集、標準化して一貫性のあるフォーマットに変換します。さらに、異なるデータ間で関連付けを行い、単一のリポジトリ内で統合されたビューを作成することができます。
これにより、データの検索、更新、バックアップ、セキュリティ対策などが容易になり、企業はデータの品質を保ちつつ迅速なデータアクセスを実現できます。
また、重複データの削減やデータの一貫性維持も容易になり、全体的なデータ管理コストの削減にもつながります。
② 高度なデータ分析を可能にする
前述のとおり、DWHはデータを統合します。
一元管理されたデータは品質が高く整理されているため、より複雑なクエリや多次元の分析が行えます。つまり、時間に基づくトレンド分析やパターン認識、予測分析などが容易になります。
また、データウェアハウスは通常、クエリのパフォーマンスを最適化するための特別な設計がなされているため、大規模なデータセットでも迅速に分析を実行できます。
これらにより、企業は詳細なインサイトを得て、戦略的な意思決定を行うことができます。
③ 時系列の正確なデータが保持できる
DWHは、データを収集する際にタイムスタンプを記録することで、時系列にデータを維持します。これにより時系列分析やトレンド分析などを行うことができ、長期的なビジネスの洞察を得ることができます。
4.DWHの活用例
前述のようなメリットがあるDWHは、実際には BIツールなどと組み合わせて「データ活用基盤」を構築する形で活用されることが多いです。
DWHの真価は、単に情報を蓄積することではなく、その情報からビジネスインサイトや知見を引き出すことにあります。
そこで、ETLやビジネスインテリジェンス(BI)ツール、データカタログと連携することで、DWH内の情報をより正確に、より理解しやすくするという取組みをされている企業が増えているのです。
【データ活用基盤の導入で実現できること】
- 戦略的なデータ活用
ETLによるデータの抽出、変換、ロードがデータを正確かつ迅速にDWHに集約します。BIツールはこれらのデータを分析しやすく可視化し、データカタログはデータの発見と理解を支援します。これにより、ビジネスインサイトを導き出し、戦略的な決定を行う基盤が整えられます。 - 高度なアナリティクス
BIツールは、高度なデータ分析機能を提供し、予測分析やユーザー行動分析など複雑な分析を可能にします。これにより、企業は将来のトレンドを予測し、市場に先んじた行動を取ることができます。 - 時間とコストの削減
ETLプロセスとデータカタログの導入により、データ関連作業の自動化と最適化が進み、手動でのデータ処理にかかる時間とコストを削減できます。 - データ品質と信頼性の向上
ETLはデータのクレンジングと統合を行い、BIツールはそれらの質の高いデータを利用して精度の高い分析を提供します。これにより、意思決定においてデータの信頼性が増します。 - データガバナンスの強化
データカタログはデータガバナンスポリシーの実施を支援し、適切なデータアクセス管理、プライバシー保護、コンプライアンス遵守を促進します。 - 組織全体のデータリテラシー向上
BIツールのセルフサービス機能とデータカタログにより、従業員が自らデータを探索し分析する能力が向上し、組織全体でのデータリテラシーが高まります。
企業はETL、BIツール、データカタログのシナジー効果を活かして情報を経営資源として最大限に活用し、競争優位を築くための洞察を得ることができるようになります。
【具体例】小売店のPOSシステムのデータ分析
DWHを用いたデータ活用基盤が活用される場面として、小売店におけるPOSシステムからのデータ分析が挙げられます。
具体的には、下記のようなことが実現できます。
- 売上分析
各店舗、地域、商品カテゴリーごとの売上データを集計することで、どの商品がよく売れているか、や、売上の傾向を把握できる。 - 在庫管理
売上データを基に、在庫の最適化を測れる。過剰在庫や品切れを防ぎ、精度の高い需要予測が可能になる。 - 顧客行動分析
顧客の購買パターンを分析することで、ターゲットマーケティングやパーソナライズされたプロモーション計画のサポートとなる。 - 価格戦略
売上データから価格感受性を分析することで、最適な価格設定やプロモーション効果の評価を行えるようになる。 - 時間帯別売上分析
日時情報を利用して時間帯別の売上パターンを分析することで、人員配置や営業戦略を最適化できる。 - 市場動向分析
長期間にわたるデータを分析することで、市場のトレンドを捉え、新商品開発や店舗展開の計画を効率化できる。 - 販売促進の効果測定
プロモーションやキャンペーンごとの売上効果を測定することで、ROI(投資対効果)を評価できる。 - 供給チェーン最適化
販売データと連携し、供給チェーンの効率化を図れる。製品の流通コスト削減やリードタイム短縮が可能になる。 - 季節性分析
季節やイベントごとの販売傾向を分析することで、季節商品の在庫計画やマーケティング活動に反映できるようになる。
5.DWHの選定ポイント
DWHは様々な企業が出しているため、どのように選択するか迷う方も多くいらっしゃるかと思います。
そこで、ポイントを4つピックアップしご紹介したいと思います。ご参考にしていただければ幸いです。
① オンプレかクラウドか
まず1つ目は、オンプレかクラウドか、です。
下記の要素を考慮して、企業のニーズや予算、セキュリティ要件、運用能力などと照らし合わせたうえで選択しましょう。
クラウド | オンプレミス | |
---|---|---|
コスト | 初期投資が少なく、必要に応じてスケーリング可能。運用コストも柔軟に調整できる。 | 導入時の初期投資やメンテナンスコストが高く、スケーリングには追加コストがかかる。 |
セキュリティ | セキュリティ対策はクラウドプロバイダーが担当し、物理的なセキュリティやデータバックアップが確保される。 | セキュリティ管理は自社で行うため、データの完全な管理とコントロールが可能。 |
可用性と信頼性 | クラウドプロバイダーは高い可用性と信頼性を提供し、障害発生時の迅速な復旧が期待できる。 | 自社でシステムを管理するため、ハードウェアやネットワークのトラブルに対応する必要がある。 |
運用と保守 | システムの運用や保守はクラウドプロバイダーが行うため、自社のITリソースを割かなくても済む。 | 自社で運用・保守を行うため、専門知識やリソースを持っている必要がある。 |
規模と成長性 | 急速なスケール拡大や縮小に適しており、柔軟なリソースの追加や削減が可能。 | 規模の拡大に合わせてハードウェアやインフラを常に最新化する必要がある。 |
② 機能が足りているか
つづいて、機能が足りているか、という点です。例えば下記の3点が良く挙げられるかと思います。
a.セキュリティ基準に適合しているか
業界や自社特有のセキュリティ基準がある際には、それに対応できるかどうか、必ず確認するようにしましょう。
b.データ容量や処理速度は要件を満たすか
扱えるデータ量は製品ごとに異なります。
小規模環境に適しているもの、大規模環境に適しているもの、などそれぞれ特性がありますので、使う目的に沿った能力を持っている製品を選択しましょう。
c.外部サービスと連携できるか
業界や自社内でよく使われるツールやプラットフォームと連携できるかどうか、も事前にチェックしておきましょう。
ネイティブに対応していないと、つなぎこみに別のツールを選定・導入したりバージョンごとの互換性などを気にしたりする必要が出てきてしまい、調整負荷が高まってしまいます。
ご参考:おすすめのDWH
上記のポイントを加味し、弊社ではマイクロソフトのAzure Synapse Analyticsをお勧めしています。
Azure Synapse Analyticsのメリットは下記です。
理由① 様々なセキュリティ基準をクリアしている
Azureは高度なセキュリティ機能を提供し、ISOやHIPAA、GDPRなどの規制に適合しています。さらに、データ暗号化やアクセス制御など、セキュリティ基準を満たすことができます。
理由② 大規模データセットに対応
規模なデータセットにも対応し、クラウド特有のスケーリングが可能です。処理速度やクエリの効率性も高いレベルで要件を満たすことができます。
理由③ 外部サービスとの連携が容易
多くのサービスやツールとの連携が容易であり、Power BIやAzure Machine Learningなどのサービスとシームレスに連携することが可能です。さまざまなデータソースや分析ツールと統合が可能です。
気になる方は下記のブログも併せてチェックしてみてください。
6.まとめ
以上、いかがでしたでしょうか?本記事の内容をまとめると…
- DWHは、データマートやデータベースと比較しても、より高度な分析が可能で長期的なデータの蓄積や履歴管理に優れている点が特徴
- 基本的にはBIツールと連携させることが多く、これによりビジネスインサイトや知見を引き出すことができるようになる
- DWHにより、企業は過去のトレンドを分析し、将来の予測へとつなげることができる
AzureでのDWHの導入、ならびにデータ活用基盤の構築についてご相談事がある際には、ぜひ下記のフォームよりお問い合わせくださいね。
どうぞよろしくお願いいたします。
この記事を書いた人
- Azure導入支援デスク 編集部
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こんにちは!双日テックイノベーション(旧:日商エレクトロニクス)では、Microsoft Azure活用に関する有益な情報を皆様にお届けしていきます。Azure移行、データ活用、セキュリティなどに関するお困りごとや、Microsoft Azureに関する疑問点などお気軽にご相談ください。
ブログにしてほしいネタなどのリクエストもお待ちしております。
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