BIツールは入れた。経営判断は経験のままか

本記事のポイント

    1. BIツールを入れても、経営判断が「勘と経験」から変わるとは限らない
    2. 判断を変えるのに必要なのは、部門をまたいだ統合と、判断に間に合う情報鮮度と、全社で保つ品質
    3. 見直す対象はBIツールではなく、その下にあるデータ活用基盤の設計

多くの企業がデータにもとづく経営を掲げ、TableauやPower BIといったBIツールを導入し、データを接続してダッシュボードを作ってきました。それでも、意思決定の進め方そのものは導入前とほとんど変わっていない企業が少なくありません。経営層はダッシュボードを見ています。しかし最後に頼るのは、経験にもとづく勘や、過去の成功体験です。BIツールの導入は、データにもとづく判断への出発点にあたります。判断が変わるかどうかは、そのあとで部門をまたいだデータの統合、更新の頻度、データの品質管理を、情報システム部門と各部門がどう整えるかで決まります。

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1. BIツールを導入しただけでは足りない理由


部門をまたいだ分析ができていない

多くの企業では、BIツールの活用が部門ごとのレポート作りにとどまっています。営業部門は営業データを、マーケティング部門はキャンペーンデータを、それぞれ可視化しています。

マーケティング施策が営業の商談にどう影響し、最終的な収益にどうつながったか。経営判断では、営業とマーケティングの数字を横断して見ることになります。部門をまたぐ分析ができなければ、この道筋はたどれません。ダッシュボードは、部門ごとのレポートを並べただけのものになります。

判断に間に合う鮮度でデータが届かない

経営層が今日見られるのは、昨日までの数字です。当社が支援の現場で見てきた範囲では、BIレポートの更新を翌日のバッチ処理で行っている企業が多くあります。今日起きた変化は、明日にならないと画面に出てきません。変化の速い市場では、この1日の遅れが値下げや発注の判断を実際の状況からずらすことがあります。

この遅れが、「データよりも勘のほうが速い」という判断につながります。

データの定義が部門ごとに違う

部門ごとにデータの定義やルールがばらばらで、同じ「売上」という指標でも部門によって数字が異なります。すると、数字の正しさを議論すること自体に時間を費やしてしまい、本来の意思決定に至りません。

経営層がその数字を信頼できるようになるのは、定義がそろってからです。ダッシュボードの見た目を整えても、この順序は変わりません。

 

💡STech I ワンポイントアドバイス

当社は支援の場で、経営会議の様子から3つのどれが強く影響しているかを見ています。出席者が数字を突き合わせているなら、定義です。出席者が「数字は信頼できるが反映が遅い」と言うなら、更新の頻度です。部門ごとの報告はそろっているのに全体像が見えないなら、データの統合です。なお、集計処理の不備や画面の設計、会議の進め方が重なっていることもあります。切り分けたうえで、基盤の側に何が要るかを決めてください。

 

2. 経営判断を変えるために必要なデータ活用基盤の視点


BIツールを新しくすれば、画面の応答が速くなる、作れるグラフの種類が増えるといった違いは出ます。ただし、変わるのは見せ方までです。BIツールのデータモデルは複数の供給元を結合でき、計算列や集計の定義も作れます。それでも、元のデータに入っていない事実は作れません。供給元の更新が1日1回であれば、画面に出る数字もその頻度にとどまります。指標について何を正とするかも、ツールの機能では決まりません。

同じことがAIの取り組みにも起きています。Gartner は、AIの取り組みがROIを達成する見込みを5件に1件、事業を大きく変える成果に到達する見込みを50件に1件と示しました。2025年10月のGartner IT Symposium/Xpoの基調講演によるものです。この2つは講演を取材した報道で確認したもので、母数、調査の時期、対象の地域、業種、企業規模はいずれも公表されていません。

同じ講演で、Gartner のアナリストである Daryl Plummer 氏が、AIによって生産性が上がったと答えたCFOが74%、明確なROIを確認できている組織が11%と述べました。報道1件により確認したもので、回答者の属性も、この数値の出どころとなる調査も公表されていません。

74%と11%は回答した主体が違うため、2つの差をそのまま比率として扱うことはできません。生産性が上がったと答えたCFOが多い一方で、成果を数値で確認できている組織はその一部にとどまる。読み取れるのはここまでです。

ここまでに挙げた4つの数値は、いずれも割合を示すだけで、原因までは示していません。原因については、当社が支援の現場で見てきた範囲でお伝えできることがあります。成果が出ない取り組みの多くは、部門をまたいでデータを結合できる、判断に間に合う頻度で更新される、指標の定義が決まっている、というデータ活用基盤の3つの条件のどれかを欠いていました。

見直す対象は、個々のツールではなく、データ活用基盤の設計そのものです。どのデータをどこに集め、どう定義するかを、情報システム部門と各部門が決め直すことになります。

BIツールの下にデータ活用基盤があり、その下に各部門のデータがあることを示している

 

💡STech I ワンポイントアドバイス

基盤の全体を設計し直す場合でも、どこから着手するかは選べます。当社が支援した範囲では、最初に統合する対象を全社に広げた場合、合意を得る相手が増え、着手までに時間がかかりました。対象の業務を絞り、その業務で使う指標に必要なデータだけを先に統合した場合は、調整する相手が限られました。

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3. Everyday AIとGame-Changing AIの違い


Gartner は、AI活用を Everyday AI と Game-Changing AI の2つに分ける区分を示しています。どちらを選ぶ場合も、企業はどの用途に使うか、どのモデルを選ぶか、どの業務に組み込むかを決めることになります。その前提として、情報システム部門が、自社のデータをAIに渡せる形で保てている必要があります。

比べる軸 Everyday AI Game-Changing AI
目的(Gartner の区分) 生産性を高める。いま行っている仕事を速く、手間をかけずに進める 新しい製品やサービスを生み出し、事業のしくみを変える。競争力そのものを変える
例(原稿による) 文書の要約、メールの下書きの作成、定型レポートの自動生成 新しい製品の開発、新しいサービスの開発、事業のしくみの見直し
使うデータ(Gartner の説明) 誰もが使える汎用のツールとデータ 自社が蓄積したデータと業務知識
競争優位(Gartner の説明) 汎用のツールをそのまま使えるため、社内のデータを整える工程が必要ない。ただし他社も同じことができる 自社のデータを使える形に整える工程が先に必要になる。そのぶん、他社は同じ結果を再現しにくい

Everyday AI に取り組む企業は多く、2023年10月のGartner IT Symposium/Xpoでは、CIOと技術リーダーの77%がその機会に注力していると報告されました。Gartner のシンポジウムでの報告であり、対象の地域は発表に明示されていません。

ただし Gartner は、誰もが同じツールにアクセスできるため、Everyday AI それ自体は持続的な競争優位をもたらさないとしています。

一方、差別化の源泉となるのは、自社固有のデータと知見を活用した Game-Changing AI です。他社は同じデータを持たないため、同じ結果を再現しにくくなります。そのためには、情報システム部門と各部門が、BIツールを入れるだけでなく、全社のデータをどこに集めどう定義するかを決めることになります。

 

💡STech I ワンポイントアドバイス

Everyday AIとGame-Changing AIは、どちらかを選ぶものではありません。Everyday AI でも、社内のデータと接続する設定が必要な用途があります。区分は目的で分けたもので、必要な準備の重さをそのまま表すわけではありません。Everyday AI を進めている間に、情報システム部門は、Game-Changing AI で使うデータをどこから取得し、どのように保持するかを決めておけます。

 

4. よくある質問


Q. いまのBIツールを新しくすると、何が変わりますか。
供給されるデータが部門ごとに分かれ、更新が翌日のままであれば、見える数字は変わりません。会議で誰が何を決めるか、どの順で決裁するかも判断のしかたを左右します。入れ替えを検討する前に、いま困っていることの原因が、現行ツールの制約、供給されるデータ、決裁の進め方のどれにあるかを、情報システム部門が切り分けてください。

Q. 基盤を見直した効果は、何を見れば分かりますか。
決まった測り方はありません。当社が支援する場合は、統合の前と後で、経営会議に出た同じ指標の数字と、その場で決まったことを情報システム部門に記録してもらい、両方を比べます。数字が変わったか、数字の確認に使った時間が減ったか、その場で結論が出たか、の3点を見ます。

Q. データ活用基盤への投資を、経営層にどう説明しますか。
部門のデータの統合、更新頻度の引き上げ、指標の定義の統一。当社が関わった案件では、この3つに着手する前の段階で、情報システム部門が費用対効果を数字で示すことは難しいものでした。代わりに、いま経営層が判断に使っている数字が信頼できるかどうかを示すほうが伝わります。同じ指標で部門ごとに数字が違う例を示せば、経営層はいま自分が見ている数字の前提がそろっていないことを、その場で確かめられます。

 

5. まとめ


BIツールの導入によって、部門ごとの数字は見えるようになりました。ただし、それだけで経営判断が変わるわけではありません。部門をまたいでデータを統合すること、判断に間に合う鮮度でデータを届けること、全社で信頼できる品質にデータを保つこと。これらを実現するには、情報システム部門と各部門が、BIツールの上位概念であるデータ活用基盤の全体を設計し直す必要があります。

ダッシュボードは見ているが判断は変わっていない、という状態が続いているのであれば、いまがデータ活用基盤全体の設計を見直すタイミングかもしれません。

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6. 出典


すべて2026年8月8日に確認。公開の直前に、各項目の内容と新しい発表の有無を再確認する。

  • AIへの投資でROIを達成する見込みが5件に1件、事業を大きく変える成果に到達する見込みが50件に1件。
    • 出典は Gartner IT Symposium/Xpo 2025 の基調講演(2025年10月20日、米国オーランド)。Gartner のページは自動での取得を拒否するため、報道と配信記事で確認した。Gartner 自身が公開したページのURLは特定できていない。
    • Gartnerの原文は “the odds of an AI initiative achieving ROI were 1 in 5″、および “the odds of an AI initiative achieving true transformation were 1 in 50″。
    • 母数と調査時期は公表資料に示されていない。原文は報道と配信記事に引用されたものによる。
  • AIによって生産性が上がったと答えたCFOが74%、明確なROIを確認できている組織が11%。
    • 出典は同じ基調講演。Gartner のアナリストである Daryl Plummer 氏の発言。
    • 報道は InformationWeek の記事「Gartner: Disillusionment Around AI Presents a ‘Hero Moment’ for CIOs」。2025年10月20日の基調講演を取材したもの。掲載ページは InformationWeek の取材記事
    • Gartner 自身の公表資料で、この2つの数値を記載したページは見つかっていない。母数と設問も公表資料に示されていない。
  • Gartner は AI 活用を Everyday AI と Game-Changing AI の2つに分ける区分を示している。
    • 出典は Gartner の解説ページ「Everyday AI vs. Game-Changing AI」。区分の定義と、それぞれが使うデータについての説明はこのページによる。公開日は同ページに明示されていないため、本文でも時期は示していない。
  • CIOと技術リーダーの77%がEveryday AIの機会に注力。
    • 出典は Gartner の発表「Gartner Says CIOs Must Prioritize Their AI Ambition and AI-Ready Scenarios for Next 12-24 Months」(2023年10月16日)。
    • 掲載ページは Gartner のプレスリリース(2023年10月16日)。同じ内容の配信は Business Wire の同発表
    • 母数と調査時期はこの発表に示されていない。公表は2023年10月、確認は2026年8月8日で、2年10か月の開きがある。同じ設問のその後の発表は確認できていない。