AIの活用がデータ整備で止まる理由

本記事のポイント

    1. AI導入がデータ整備で止まるのは、データがAIの使える状態にないため
    2. AI投資の収支が「均衡」または「損失」と答えたCIOは72%
    3. 全社を整えてからではなく、AIで実現したいことから逆算して範囲を絞る

「AIを導入したい」という声は、多くの企業の経営会議で聞かれます。ところが検討を始めると、たいてい「まずデータ整備が必要です」という話になります。AI導入の企画がデータ整備の話に置き換わり、そのまま止まる。この状態にある企業を、当社は数多く見てきました。止まる理由は、データの側にもAI導入の費用の側にもあります。

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1. なぜAI導入の前にデータ整備が必要になるのか


データはあるが、AIが使える状態ではない

AIに適したデータ管理の体制について、ない、あるいはあるかどうか分からないと答えた組織は63%にのぼります。Gartnerが2024年第3四半期に、データ管理の責任者248人に対して行った調査の結果です。この状態のまま進めた場合の見通しとして、Gartnerは、AIに適したデータに支えられていないAIプロジェクトの60%が2026年までに中止されるとしています。

量はあっても、品質と整合性が足りない

多くの企業は「データはたくさんある」と認識しています。ただし中身を見ると、同じ取引が複数のシステムに重複して入っている、部門ごとに項目の定義が違う、欠損の多い項目がある、といった状態です。

量は十分にあるように見えても、AIが正確な推論を行うために必要な品質と整合性が欠けています。重複も、定義の不一致も、欠損も、AIモデルの精度を下げます。量と品質のこの開きが、AI導入の検討段階で「まずデータ整備を」という議論につながります。

 

💡STech I ワンポイントアドバイス

データが使える状態かどうかは、量ではなく、同じ対象を同じものとして扱えるかで判断します。当社が確認するのは、顧客と取引の識別子です。同じ顧客が複数のシステムで別の番号を持っている場合、その対応表がなければAIは別々の顧客として扱います。AI導入の検討を始める前に、対象の業務で使う識別子が何本あり、対応表があるかを整理してください。

 

2. AI導入の費用はツールの価格だけでは収まらない


止まる理由は、データの側だけではありません。AI導入にかかる費用を見積もると、多くの企業が想定していた額を超えます。

2025年5月のGartnerの調査では、506人のCIOとその他の技術リーダーのうち、CIOの72%が、自社のAI投資について収支が均衡しているか損失が出ていると回答しました。

費用が想定を超える理由のひとつが、ツールの価格以外に積み上がる支出です。情報システム部門が見積もる段階では見えにくく、導入が決まってから現れます。Gartnerは、AIツールを1つ購入するごとに10個の隠れた費用と、教育や業務の作り替えにかかる移行の費用を見込むべきだとしています。具体的には、基盤の増強、セキュリティ対策の強化、データパイプラインの作り直し、社内教育の実施です。

 

💡STech I ワンポイントアドバイス

モデルの再学習、精度の監視、問い合わせへの対応、データの追加取り込み。これらは導入の見積書には載りませんが、AIが動き出せば毎月かかります。経営層に示す資料は、導入の費用と1年間の運用費用を分けて出してください。片方だけの数字で承認を取ると、翌年度に説明のつかない支出が残ってしまいます。

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3. AI導入とデータ整備を並行して進める


AI導入とデータ整備は、どちらか一方を選ぶものではありません。並行して進められますが、そのためには範囲の絞り方を先に決めておく必要があります。

整えるのは目的に関係する範囲だけ

データ整備と聞くと、社内にあるすべてのデータを一から整えなければならないように思われがちです。ですが、実際に整えるのは、AIで実現したいことに直接関係するデータだけで十分です。

たとえば、AIを使って需要予測の精度を上げたいのであれば、整備するのは販売実績、在庫データ、外部の市場データに限られます。顧客サポートのAI化を目指すのであれば、問い合わせ履歴と社内の手順書の整備が先になります。目的から逆算してデータの範囲を決めれば、終わりの見えない整備作業を避けられます。

データに関する情報も用意する

データそのものと同じくらい、データに関する情報も必要です。このデータは何を意味するのか、いつ取得したのか、どの部門が所有しているのか、どのような加工をしたのか。こうした情報がなければ、AIに渡すデータをどう解釈すべきかを、利用する側が判断できません。

目的から逆算してデータの範囲を絞る

 

💡STech I ワンポイントアドバイス

範囲を絞っても、進めるうちに対象は広がります。整備の対象一覧に「追加した理由」と「承認した人」の欄を設け、項目を足すときは必ず埋める決まりにしてください。欄が埋まらない項目は、次の段階に回します。

 

4. データガバナンスの5つの柱


データ整備を進めるうえで、データガバナンスの枠組みを知っておくと、何から手をつけるかを決めやすくなります。ガバナンスが扱うのは、次の5つです。

扱うもの 決めること
①データ定義の統一 売上、顧客、受注といった用語の定義を部門をまたいでそろえる
②ポリシーの策定 誰がどのデータにアクセスできるか、保持期間、個人情報の扱いを決める
③データカタログの構築 社内にどのデータがあり、どこに格納されているかを一覧にする
④アクセス制御 必要な人が必要なデータにアクセスでき、それ以外は防ぐ状態を作る
⑤監査とモニタリング データの品質とアクセスの状況を継続して監視し、問題に対応する

5つの柱は、それぞれ独立したものではありません。たとえば、データの定義がそろっていなければ、どれだけデータを集めても分析結果を信頼できません。また、データがどこにあるか分からなければ、分析よりも探すことに時間を使ってしまいます。
さらに、ポリシーがなければ、個人情報や保持期間の扱いが担当者ごとに変わります。アクセス制御がなければ、必要な人が必要なデータにアクセスできない一方で、見るべきでないデータに手が届くこともあります。
そして、監査を続けなければ、データの品質低下や不正なアクセスに気づくのが遅れます。データガバナンスは、一度仕組みを作って終わりではありません。5つの柱をもとに、継続して運用していくことが大切です。

 

5. よくある質問


Q. データ整備とAI導入は、どちらを先に進めますか。
どちらかを先にする必要はありません。範囲を絞れば、整備とAI導入を並行して進められます。1つの用途を選び、その用途に必要なデータだけを先に整えます。その用途でAIが動き出したあとに、次の用途のデータへ移ります。

Q. どの用途から始めると決めやすいですか。
必要なデータの範囲が狭く、成果を測れる用途からです。需要予測であれば販売実績と在庫、顧客サポートであれば問い合わせ履歴というように、対象が数えられる用途は範囲を決めやすくなります。対象が全社に散らばる用途は、後の順番になります。

Q. データガバナンスの5つの柱は、どの順で着手しますか。
AI導入を進めるうえで先に要るのは、データ定義の統一と、対象データのカタログです。アクセス制御と監査は、扱うデータの範囲が決まってから設計します。

 

6. まとめ


AIの目的から逆算して範囲を絞ります。自社がAIで何を実現したいのかを決め、そのために必要なデータだけを先に整備する。全社のデータを完璧に整えてからAI導入に着手するのではなく、目的に結び付くデータから着手し、AI導入と並行して整備を進めます。

データ整備は目的ではなく手段です。AIで何を実現したいかを先に決めれば、整備の優先順位と範囲も決まります。この順序に切り替えれば、AI導入の話がデータ整備だけで止まる状態からは抜け出せます。まず用途を1つ選び、そこで使うデータだけを一覧にしてください。

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7. 出典


  • AIに適したデータ管理の体制がない、あるいは分からないと答えた組織が63%。
  • AIに適したデータに支えられていないAIプロジェクトの60%が2026年までに中止される見込み。
  • 出典: Gartner 「Lack of AI-Ready Data Puts AI Projects at Risk」(2025年2月26日)。
  • 掲載ページは gartner.com
  • CIOの72%が、自社のAI投資について収支が均衡しているか損失が出ていると回答。
  • AIツールを1つ購入するごとに、10個の隠れた費用と、教育や業務の作り替えにかかる移行の費用を見込む。
  • 出典: Gartner 「Gartner Survey Finds All IT Work Will Involve AI by 2030」(2025年10月20日)。