データレイクハウス「Databricks」で新たなデータドリブン経営を加速
~過去の分析から未来の予測へシフトし、製品原価の可視化とAIエージェントによる業務効率化を実現~

東洋製罐グループホールディングス株式会社
総合容器メーカーとして、日本で初めて自動製缶設備による製缶を実行した東洋製罐グループホールディングス。長い歴史を持つ同社は、さらなるデータの利活用を促進するため、データレイクハウス「Databricks」を採用。変動する製品原価の可視化、AIエージェントの活用による経営判断の迅速化と業務負担の軽減などを目的とした取り組みを、双日テックイノベーションが支援した。
Before / 課題・目的
- データの利活用が不十分で収益の精緻な分析に労力がかかっているため、勘や経験に依存
- 従来のBIツールでは多角的な分析が難しく、リアルタイム性も低い
- グループ全体のヘルプデスク対応やITシステムを支える人的リソースが不足
After / 効果
- データレイクハウスを活用し、経営判断の高度化とスピードアップを推進
- 多くの事業会社が持つデータを横串で見られるプラットフォームを構築。生成AIやAIエージェントの活用を推進しやすい環境が整った
- トライアルを経てAIエージェントを導入。業務負担の軽減が見込める

データの利活用をさらに進め、経営判断の高度化やスピードアップを
東洋製罐グループホールディングスは、金属・プラスチック・ガラスなど多様な素材の容器を開発・製造する総合容器メーカーだ。長年にわたり培ってきた技術力・開発力をベースに、食品・飲料・日用品をはじめとする幅広い産業分野に容器・包装を提供してきた。容器・包装を通じて「食」の安心・安全を支える企業である。近年はCO2排出量の削減やプラスチック使用の抑制に取り組むべく、サステナブルな製品の開発にも注力している。
その事業を支えるためのITシステムの構築、インフラの整備、保守運用を一貫して担う情報システム部では、グループ全体のDXを推進している。情報システム部 デジタルソリューション開発グループ グループリーダーの清水秀平氏は「社会の要請に応えていくために、今後も革新的な容器ソリューションを提供していきたいと考えています。そのうえで、これまで蓄えたデータを使った業務改善や効率化だけでなく、仕事の進め方そのものの改革にも取り組んでいます」と語る。
同社はデジタル化社会におけるグループのあるべき姿を目指して「Group Digital Vision2030」を制定。その実現のための取り組みの一つとして、2023年にはワークショップを開催し、現状の課題抽出と、より効果的なデジタル投資のあり方を協議した。その結果見えてきたテーマが、「データの利活用」だったという。
当時、情報システム部は、受注から出荷までを担う生産・在庫・物流管理、人事・会計・顧客情報管理など、基幹業務を支えるシステムの導入・整備をおおむね完了し、一部の事業会社で導入が完了していた。これらのシステム群に蓄積されたデータの利活用をさらに推進することで、経営判断の高度化とスピードアップ、業務効率化を目指したのである。
未来予測とAI活用を見据えたデータレイクハウスへ
プロジェクト開始当時の課題として、執行役員 情報システム部長の永井恒明氏は「グループ全体でデータの利活用が不十分ではないか」という認識を持っていた。
「それまでのIT基盤の整備により、生産管理をはじめとした基幹業務に関わるデータは揃ってはいました。しかし収益を具体的に分析しようとしても、この収益結果につながる要因を特定するようなデータがないのです。そのため勘と経験、あるいは担当者の恣意が働いて次の一手を誤ってしまうリスクを抱えていました」(永井氏)
清水氏も「収益の情報を今よりも早く把握し、市場の変化に対してスピーディな判断を下せるようにしたいと考えていました」と当時の考えを述べる。
また、収益だけでなく、原価についても同様に正確さとスピードが求められていた。実際の製品原価には、材料費や人件費、電気代、保管料など、さまざまなコストが関係してくる。これについて清水氏は「実際の原価を正確に把握して、原価が想定に見合わない場合は生産活動を見直すのか売価を見直すのか、そのような判断のためのデータ分析が可能な土台を作っていきたかったのです」と説明する。
東洋製罐グループホールディングスでは、以前からデータ分析や定型的なレポート作成にBIツールを活用してきた。しかし清水氏は「いろいろな観点から分析したいときには、BIツールから出力される定型レポートを人手で加工していたため、リアルタイム性が低いという問題を抱えていました」とその課題を語った。
そのような折、双日テックイノベーションから提案されたのがデータレイクハウスというアーキテクチャであり、それを実装できるプラットフォーム「Databricks」だった。データレイクハウスとは、データウェアハウスが持つ「構造化された定型データベースを高速に処理する」という利点と、データレイクが持つ「非構造化された多種多様なデータを扱う」という利点を併せ持つものだ。
この提案の際、清水氏は双日テックイノベーションから「データレイクハウスは、過去の分析だけでなく、未来を予測するもの」と説明されたことが強く印象に残っていると語る。
これまでデータウェアハウスを過去のデータを分析するために活用し、その分析をもとに経営判断に活かすデータドリブンを実践してきた。だが、非構造化データを含む多様なデータを統合管理できるデータレイクハウスであれば、過去の分析だけでなく、未来予測のデータをもとにした経営判断、いわば新たなデータドリブンに挑戦できる。
そのうえで永井氏は「生成AIやAIエージェントの活用も進めやすくなると感じた」と説明する。
「多くの事業会社のデータを集約して、横串で見られるようなプラットフォームを探していました。当初はクラウドストレージや他のクラウドデータプラットフォームも検討していたのですが、非構造化データやAIの活用を踏まえると、データレイクハウスのほうが良いと判断しました」(永井氏)

東洋製罐グループホールディングス株式会社
執行役員 情報システム部長
永井 恒明 氏
トライアルで新たなデータドリブンの可能性を確認
Databricks の効果を確かめるために、同ホールディングス傘下のグループ会社でトライアルを実施した。2つの会社が統合し、設立したばかりのメビウスパッケージング株式会社だ。同社を選んだ理由として永井氏は「メビウスパッケージングでは、それぞれ異なる文化と仕組みを持つ会社が一つになったことで、『新しいものを作ろう』という機運、チャレンジ精神が生まれていました。新しいデータ利活用は経営層の関心もあり、一緒に検討するには最適な環境だったのです」と語る。
そのトライアルでは、「さまざまなシステムから取得した大量のデータを、Databricksでどのように可視化できるのか」「自然言語での質問に対して、AIがどのように回答するか」、そして「品質向上に寄与できるか、原価上昇などの経営課題の解決に役立つか」という観点を重視した。
こうしてDatabricks導入のパートナーに選ばれた双日テックイノベーション。その選定理由を永井氏は「古いデータドリブンから脱却し、AIを駆使して未来を提言する新しいデータドリブンに挑戦しよう。そうした双日テックイノベーションの未来志向の提案が、私たちの思想に合っていたのです。また製品の機能や技術的な説明に留まることなく、Databricksの活用効果についてユーザー部門、情シス部門と同じ視点で議論を進めてくれる点も好印象でした」と語る。
清水氏も「2023年の段階でデータレイクハウス、そしてDatabricksを提案してくれたのは双日テックイノベーションだけ。商社系システムインテグレーターらしいグローバルな情報収集力を活かし、国内市場の一歩先を行く提案をしてくれました」と評価する。

東洋製罐グループホールディングス株式会社
情報システム部 デジタルソリューション開発グループ
グループリーダー
清水 秀平 氏
製品原価の可視化とAIエージェントによる業務効率化
トライアルでは約1年かけて3つの取り組みに挑戦した。1つ目は前述した「製品原価」の「可視化」だ。材料費や人件費、電気代、保管料などの原価要素は一定ではなく、実際には季節や状況によって変動する。例えば電気代の高い季節には原価が上がる。在庫商品の保管料は早く出荷できれば低く抑えられるが、長く持ち続ければ高くなる。「このように変動する原価を、リアルタイムで把握したかったのです」と永井氏は説明する。
2つ目の取り組みとして、AIエージェントを活用したヘルプデスクを構築する予定だ。情報システム部がグループ各社に提供しているヘルプデスクだが、従来は多種多様な問い合わせにマンパワーで対応していた。それをAIエージェントが回答する形式に変更する方向で進めている。
3つ目の取り組みは「設計書レビュー」である。ITシステム導入の際に欠かせないのが、RFPをもとにしたベンダー提案の評価だ。これまでは担当者が要件定義書を参照しながら、各社の設計内容を一つひとつ確認していた。そのレビュー工程にAIエージェントを活用するのである。
これらのトライアルを通して、原価の詳細な可視化、経営判断のスピードアップへの道筋が見えてきた。またヘルプデスクは30~40%の工数削減、設計書レビューは30%程度のコスト削減につながる見込みと評価した。
「ヘルプデスクでは、利用システムやセキュリティ上の制約などを踏まえた回答が必要です。そうした社内環境と過去のナレッジを反映した回答を AI エージェントが用意してくれるのは、非常にありがたいですね」(清水氏)
加えて清水氏が高く評価するのが、「24時間365日体制で回答できる」という点だ。情報システム部がヘルプデスクとして対応できる時間帯は限られており、人的リソースにも限界がある。その点AIエージェントを活用すれば時間を問わず、また情報システム部のリソースを割かずに一定のサポートを提供できるので、ユーザーにとっても情報システム部にとってもメリットとなる。
設計書レビューでは、数多くの設計書を人の目でチェックする必要があり、工数とコストの負担が大きい。そこでAIエージェントを活用すると、要件に即して必要な設計が盛り込まれているか、表記に誤りがないかを瞬時に検証できる。清水氏は「レビューのスピードと品質が格段に向上しました。これまで手が足りないときは外注に頼っていましたが、その必要がなくなり、コスト削減と内製化の推進にもつながりました」と評価する。
また開発するシステムによっては、ユーザー部門での利用方法・運用ノウハウを踏まえて評価する必要があるため、業務部門にもレビューを依頼している。これもAIエージェントの活用により、業務部門の負担を増やすことなくレビューを完結できる見込みだ。
新たなデータの利活用を定着させる伴走型の支援
これらのトライアルにおいて苦労した点として、清水氏は「現場に『未来を予測する』という考え方を根付かせること」を挙げる。
清水氏は「データレイクハウスという新しいアーキテクチャ、それを実装するDatabricksというプラットフォームは、私たちにとって馴染みのないものです。何かを実現するのに、どの技術をどう組み合わせ、どのように利用すればよいのかも分かりませんでした。その中で双日テックイノベーションは構想段階から伴走し、設計や運用の具体的な方向性を決める支援をしてくれました」と語る。
例えば、AIエージェントを構築する場合は、対象となる業務の内容やプロセスを深く理解したうえで、最適な設計・設定を行う必要がある。しかし当時、社内にDatabricksとAIエージェントに精通している者はいなかった。そこで双日テックイノベーションが設計・構築などの技術的な支援を行った。
多くのグループ会社でDatabricks活用し、新たなデータドリブンの実現を
永井氏は今後の展望をこう構想する。「今回構築したシステムにIoT技術を組み合わせることで、例えば『原価が上昇している』『目標値との差がこれくらいある』といったアラートを自動的に発する仕組みを作ることも検討しています。そうやって事前に利益や損失を予測することもできるようにDatabricksの活用を広げていきたい」
製造設備への投資判断にも活用できる。新しい機器に替えれば製品の品質は向上するものの、新製品の登場ごとに生産設備を入れ替えるのはコスト負担が大きい。
Databricksによって収集されたデータを利活用すれば現行機との違いを正確に把握でき、設備交換のタイミングを判断できるようになる。
東洋製罐グループホールディングスでは現在、Databricksについてさまざまなトライアルを進めている。効果が見えたものから順次実運用へ移行しており、すでに一部は稼働を開始している。清水氏は「多くのグループ会社がありますが、私たちの『過去の分析から未来の予測へシフトしたい』という考えに共感する会社にはDatabricksを展開していきたいと考えています」と語る。
永井氏も「新しいデータドリブンといっても、それを実践するのは人間です。データレイクハウスを効果的に使うためには、科学的な根拠に基づいて経営や部門運営を行うためのスキルとノウハウが必要です。そのためにはDatabricksに触れながら、我々自らが新しいデータドリブンを推進する力を蓄えていかなければなりません」と語る。
そのうえで双日テックイノベーションに対し、「今後さらに進化していくであろうDatabricksを最大限に活用できるよう、引き続きタイムリーな情報提供と技術支援をお願いしたい」と期待を寄せた。